彼はとてもいちごが食べたいと思っている。
いちごを探し求めているのだけれど、いちご味のお菓子やいちごオレしか見つからない。
作られた甘さじゃなくて、こんな甘ったるいだけのものじゃなくて、自然な甘酸っぱさがほしいのに。
でもしょうがないからいちご味のお菓子でもいいか、いちごオレでもいいかと妥協してみる。
なんなら、本当はいちごじゃなくて最初からいちご味のお菓子でよかったのかもとさえ思ってもみる。
でもやっぱりいちごが食べたい。
そんなある日。
「あなたが食べたいものはこれですか」と言って、いちごをくれる人が現れた。
もしかしたらそれはみかんかもしれない。
でもいちご味のお菓子やいちごオレよりは、彼が探し求めていたものと近いものだと思う。
でも彼は食べない。
一度この味を知ってしまったら、もう二度といちご味のお菓子やいちごオレで妥協できなくなってしまう。
一度この味を知ってしまったら、もっともっと食べたくなってしまう。
いや…
本当はいちごが食べたいと思っていたけど、実際に食べてみて案外まずかったらどうしよう。
…食べたくない。
彼の周りにはおいしいいちごのお菓子やいちごオレで溢れかえっていて、いつでもこれらを飲み食いできる。
でもいちごは食べられない。
いちごはなかなか見つからない。
やっといちごかもしれないものをくれる人が現れたかもしれない。
でもこのいちごを一度食べたら、もう今までみたいにいちご味のお菓子やいちごオレには満足できなくなる。
でもいちごのためにがんばるだけの勇気が、今の彼にはない。
目の前のいちごを食べてみるだけの勇気が、今の彼にはない。